僕たち、いつまでこんな関係続けてくんでしょうね。
ふと口についた言葉は、思いの外大きく空気を震わせて恋人の耳へと届いた。俯せで、随からの献上品である読み物を眺めていた太子の肩が大きく揺れたのを僕は見逃さなかった。
「……何だ?急に」
「ふと思っただけですよ」
嘘だ。本当は最初から思っていた。僕と太子が恋人になったあの日から、「始まり」に浮かれていた太子とは逆に、僕は「終わり」を見据えていた。
決して太子との関係に早いとこケリをつけようと思っていたわけではない。ただどうしても、立場上だったり性別上だったりの都合は懸念せざるを得なかった。
この人は紫で、僕は赤。冠の色が、僕と彼の格の違いを顕していた。大徳と、大礼。冠位が4つも違うのは大きな問題だと思う。例え太子の権力で回りを黙殺できたとしても実質は何ら変わらない。それじゃあ、意味がない。
きっと太子もそのことには気がついてるはずだ。僕なんかよりもずっと頭が良いから、僕が考えてること以上のことを考えた上で今の生活を送っているのかも知れない。
でも僕は、怖いのだ。天皇の息子、言わば神の子に手を出したのだから、それ相応のしっぺ返しは来るのではと。そしてそれは、太子にも向くのではと危惧している。それだけは避けたい。
だからこそ僕は、早いところ彼を僕から引き離してやりたいんだけど。
「妹子」
「はい?」
「私たちは、一緒にいられるよ」
心配するなと目を細め、僕の笑顔を待つ太子。ああ、今日もまた突き放せない。
でも、太子も見てみぬふりをしてるなら、しばらくこのままでも良いかもしれない。
現実から目を逸らして、僕は恋人に笑いかけた。
(もう少しこのままでいさせてください)
(いま、しあわせなんです)
2009.04.30
2012.01.30