* * * * *

「おめでと」
「ん」

生徒はみんな出払った静かな校舎の、人気のないいつもの場所。いつもスリッパで踏み込んでいたその場所に寝そべって、ぼー、っとする。隣で藤田も仰向けに寝転がる。
何を考えているかは分からないけれど、短く交わされる言葉に感動は含まれていない気がした。

オレ達の足元にはいつも以上に軽い通学鞄。片手にはめかし込んだ担任から配られた筒。ちなみにオレのもう片方の手は携帯のオプションつき。
今日は卒業式。
思い出いっぱいの屋上で倒れるオレ達の視界に広がる空は濃い水色。その中に浮かぶ雲は吹く風の影響か、オレ達二人を追い越して流れてく。

来月からは暫く会わない。受験した学校がお互い違うからだった。オレは藤田に会えないのが少なくとも寂しいし、藤田はオレにも弟にも会えなくなるのが寂しいと言っていた。お互い依存とまではいかなくても、それなりに二人で支えあったこの数年。長いようで、短いようで、でもやっぱり思い出はたくさんあって。
……まさか狼男だったなんてなあ。

そして、今その狼男はオレの隣にいて、オレと同じ景色を見ている。そういえば、仲直りしたのもここだったっけ。べったり背中をつけているこの屋上も思い出の舞台。見回すと過去の藤田がどこも占拠していて屋上が狭く感じる。校舎の中から逃げるように来たここすらも思い出が溢れている。いっつも駄弁っていた教室よかマシだと自分に言い聞かせるものの、それでも背中から取り込まれる過去が胸を温かくして締め付ける。
やっぱりオレは藤田が好きなんだなあ、と。

感じれば感じるほどに、この胸は締められて寂しさを訴える。でも藤田は昨日と変わらず横にいる。それが明日でなくなるというのに、空はオレ達を阻むように流れていく。全部止まれば良いのに。明日が来なければ、今日がずっと続けば、藤田と一緒にいられるのに。広がる空の光景があまりに日常的で、そのまま明日に流れ込まないように携帯のレンズを空に向けて電子音を鳴らして画像を収めた。折り畳みの携帯を閉じてポケットにしまうと、空いた手で藤田の手を掴んだ。
慣れた手つきで藤田が指を絡ませてくれる。長い指から伸びるやや長い爪が優しくあたってこそばゆい。それがただ嬉しくて藤田の手を握った。

「……いいねえ、こういうの」
「あ?」
「いや、長閑だなあって」
「あー」

藤田はオレに続いて雲を見る。流れ続ける雲に藤田もまた、ほんとだ、と笑いを漏らした。
ああ、長閑だなあ。

「藤田」
「何だよ」
「写真とろーぜ」
「お前写メ好きだよなあ」
「馬鹿、今日は特別」

足先で鞄を蹴るように引き寄せて中身を漁る。上体はめんどくさいのでそのまんま。指先にそれらしい冷たい感触があったので、それを掴んで取り出した。

「じゃーん」
「デジカメ?」
「いいだろ」
「新品じゃん」
「買った」
「金持ちかお前。むかつくー」
「何とでも言え」

ほら、笑えよ。
寝転がったままレンズを向けてやると、藤田は呆れたように笑った。そんな笑顔が欲しいんじゃねえとぼやいたらまた笑う。今度は普通に笑っていた。
シャッター音の後、データが液晶に表れた。藤田の顔と、少しの濃い水色。
前言撤回するけれど、今日は特別でも何でもない。だって藤田が横にいるもんね。



青春と過去を画素で捉えて

(保存したから暫く更新しなくても大丈夫だよ)
(ああでも、ほんとは毎日会いたいよ。)


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地味にケンジが青臭いのが好き
2009.01.30
2012.01.30 加筆・修正。