02 07:30(入園の行列に並ぶ前)
大分遠くに来た。
もちろんそんなことは昨夜バスに乗り込む前(もっと言えば旅行代理店に申し込みに言った時から)に予測済みだったのだから、そんなことに感嘆などしたって仕方が無い。
しかし三度寝の果て、頭が麻痺したままの藤田はすっげえと一言零す。
初めて行く、と言っていたし感動も一入なのだろう。
「本当にああやってたくさんホテルとか連なってるんだな」
「そりゃあお前、そういうとこなんだから当たり前だろ」
頭をくしゃりと撫ぜてやると、藤田は犬みたいな顔して気持ちよさげに目を細めた。
(こんなでも狼男だからなあ)
その瞬間をカメラに収めたかったのに、添乗員のおっさんが説明を始めたので藤田は急に真面目な顔して前を向いた。
話していたのは、貰った日程表にも書かれているようなことだった。
別に聞いていなくても理解してるから大丈夫だと判断して、再度藤田の頭を掻く作業に戻ることにした。
鬱陶しそうに頭を動かす藤田。
しかし「やめろ」などの声も出さないので、暫く好き勝手頭をいじる。
藤田の黒髪は大分細くて柔らかい。さらりと指の間から飛び出て行ってしまう。
それは狼の毛並みとは違って、人間としての藤田がそこにあるような気がする。
藤田は話が終わるまで、俺の手を退けたり嫌がる声を上げたりはしなかった。
ただ話が終わって、前後の女子達がわらわらと出て行って人気が薄れた辺りで頬に結構な威力で張り手をされた。
辺りに人がいなくなった頃。報復にその手を掴んで窓に押し倒して、口付けしてやった。
暫くして口を離して、一人立ち上がり通路側に出た。もう俺達しかいなかった。
大人しくなった藤田に向かって携帯を構えながら、手を差し出してやった。
「ほら、行くぞ」
「……にやにやしてんじゃねーよ馬鹿」
その瞬間、俯きながら俺の手を取る藤田が俺の携帯に収められた。
2010.03.20
2012.02.03 加筆・修正。