03 10:22(ピクチャ情報より)



バス内のひと悶着の後、急いで入場の正門前に行ったら人がわらわらと列を成していた。それも長い。軽く舌打ちしながら最後尾まで寄った。ここが俺と藤田だけの貸切状態になればいいのに。
まあまあ、と苦笑いしながらそれに甘んじる藤田に納得いかず、デコピンを見舞って黙らせた。

というのが一時間とちょっと前。たった今、その頃よりはスケールが小さい列の中に飛び込んでいる。

恋人らしく付き合ってるっぽいアトラクションはちょっとだけやった。
コーヒーカップに乗った。(男二人の力で回しすぎてお互いちょっと酔った。)
巨大迷宮に入った。(迷わないように手をつないだ。)
淡い青春と男同士の友情がどこか微妙に重なっている様な、そんな雰囲気が心地よかった。
冷静に藤田と俺が男同士で、なおかつそういう関係にあるという非常に俺からしてみたら奇妙な現実を感じるのだ。
親友であり恋人でもあるというのは非常に妙だと思う。
しかしこの関係こそ願って止まなかったものなのだから、いいのだ。

「ケンジ、前詰めろよ」
「うわっ」

背中を押す力で我に返り、言葉に従う前に振り返った。
藤田とばっちり目が合う。
途端藤田は怪訝そうな顔して、辛辣な口調で俺に一言述べた。

「気持ちわりい」
「何だよ急に」
「何も無いのににやにやしてさあ」
「何か無いとにやにやしちゃいけないのかよ」
「いけないとかじゃなくて……ああ、もういいよ早く前行けよ大分後ろ詰まってるんだぞ」

藤田の肩越しに、お姉さんの苛立たしそうに寄せる眉間を見た。ああ、と一つ零して大分開いた間を小走りで埋めた。

今並んでいるのは、グループで乗り物に乗り込むタイプのアトラクション。ジャンル的にはお化け屋敷。
だから今藤田はこんなにも俺に厳しいのだ。
藤田はアトラクションの看板を目にするだけでも極端に怖がった。それを俺に引きずられてアトラクションの直前まで連れて来られてしまった、という。

「何でこんなの怖いんだよ。作り物だろ」
「や、作り物だから怖いんだろ」
「お前、曲がりなりにも狼男だろ?なのにお化けが駄目とか」
「向こうは怖がらそうとしてくるから怖いんだよ」
「……ん、よくわからんけど言いたいことは伝わった」
「なら今からでもこの列抜け出そうぜ」
「やだ」

こんなやり取りが、アトラクションの目の前に着くまで繰り返された。
藤田も折れなければ俺も折れず、結局俺の希望通りに事が進んだ形になる。
列に混じった時点で俺の勝ちは決まっていたのだ。
藤田は最後まで抵抗しようと俺をじっと睨みつけていたが、係のお姉さんにふたり、と指を立てて強調までしてやり、その上手首までがっちりと固定して引きずってやった。俺に引きずられ否応なしにアトラクションに乗り込むことになってしまった藤田は、最高に不機嫌顔だ。
しかし、発進の素振りを係のお姉さんが見せると瞬時に顔色が変わり、未だに俺に掴まれている手首をするりと抜いて、俺の手首を掴み返した。ぎゅう、と拳を作るように強く握られた手の所為でうっ血しそうだ。手首の違和感に囚われている間に乗り物はがたん、と音を立てながら発車した。
直後、目の前の扉が自動で開き俺達は暗闇の中へと入っていった。

突如原色の目玉が飛び出す。藤田が肩を竦めた。

不気味なアナウンスの言うとおりに下を見ると蛇のような形状の何かが這いながら近づいてくる。
手首に込められている力が強まる。藤田は生き物が苦手だ。顔が大層引きつっている。
……可愛い。

右折して入った扉の向こう。精巧に作られた草のオブジェの中から躍り出る無惨な格好の女の模型。
藤田に掴まれていた手首が悲鳴を上げた。藤田も短く悲鳴を上げた。

俺からしてみれば全部まがい物。何が怖いのか理解できない。でも暗闇に浮かび上がるそれらに照らされる藤田の顔が面白かったので、思わず携帯を取り出して撮影してしまった。
シャッター音を耳元で鳴らされた藤田は、いい感じのパニック顔をこちらに向けてくれた。


「…………」
「ほんとごめんって」
「あやまるくらいなら最初からすんな」

逃げるようにアトラクションから出て行った藤田を追ったら、かつてないほど怒りに満ち溢れた顔をして生垣前のベンチに腰掛けていた。隣に座ることすら拒否された。あの撮影がかなりとさかに来たのだろう。
悪気は無かったといえど、こんなに臍を曲げられてしまっては後に響く。俺は大人しく携帯を出して藤田に渡した。

「ほら、消せよ」
「……そんなことしたって許してやらねえ」

携帯をいじりながら藤田は口を曲げた。言いながらも削除はしっかりとする辺りしっかりしている。
藤田は意外とプライドが高い。俺よりもずっとだ。自分がある種の辱めを受けることが、冗談でも嫌なタイプの人間なのだ。(だからこそ征服しがいがあるのだが)
だから携帯を出してもこうなることは予測していた。……けれどやめられないというのが俺という人間であり。

「じゃあどうしたら許してくれる?」
「……昼のパレードを最前列で見せてくれたら許さんでもない」
「わかった。じゃあそれでチャラな」
「あと、二度とああいうのに連れてかない」
「約束する」
「あと、昼飯お前のおごり」
「任せろ」

全部受け入れて、藤田の隣に座った。頭を一つ撫でまわしてから、耳元でごめんと囁いた。

「……本当に怖かったんだからな」
「悪かったよ」




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2010.04.05
2012.02.03 加筆・修正。

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